IBM Think 2018 – イベントで見えた IBM Cloudの 方向性

IBM Thinkのイベント全体を通じて、IBM Cloudの一貫した方向性が感じられました。それは、企業向けのクラウド(Enterprise Cloud)として、Publicな通常のクラウドはもちろん、企業内のオンプレまでクラウド技術で統一し、全体のアーキテクチャーを考えていこうという流れです。クラウド技術とはいわゆるクラウド・ネイティブ・コンピューティングで、アプリをマイクロサービスで設計し、Docker等でコンテナ化して、Kubernetes等で展開・運用するものです。ご存知の通り、クラウドではこれにより疎結合で独立したアプリを作り、可搬性の高いパッケージとして保存し、容易にクラスターに展開したり、負荷が高くなるとオートスケールですぐにサーバーを増やすことができるようになります。

オンプレもクラウド・ネイティブ・コンピューティング

でもこれってクラウドのみでなく、企業内のオンプレのサーバーでも同じようなメリットを享受したいですよね。というわけで、クラウドで培われた以下の4つのオープンなテクノロジーなどを、オンプレでも活用できるようにする方向性です。

このことによって、クラウドとオンプレで別々のスキル育成をする必要も無くなりますし(最近はIT人材不足!)、クラウド・ネイティブで作っておいて、後からクラウドでもオンプレでも好きな方に展開できる利点もありますよね。クラウドが発展し、その優れたテクノロジー群が標準的になってきているので、確かにそれをオンプレでも使わない手はないと思います。

特にIBMは Kubernetes(外人は皆クーバーネティスと発音していた。略すとk8s)に力を入れてきており、オープンソースに人的にも貢献して、ほとんどのセッションでKubernetesの事について触れていました。IBMはコンテナをクラスターなどに展開するオーケストレーションを自動化するために、Kubernetesに賭けていますね。

クラウド・ネイティブな技術をオンプレでも使えるようにするIBM製品は「IBM Cloud Private (ICP)」ですが、上の日本語まとめ資料にもあるように、LinuxONEという、なんとメインフレーム(IBM Z)の上で動くLinuxの上や、IBMがサーバーを販売していない x86のIAサーバーもサポートすると発表されました。「どこでもクラウド」を徹底してますね。コンテナ化しておいて、とりあえず今あるサーバーでオンプレで動かしておいて、スケールアップが必要になったらクラウドに載せるとか、柔軟にできそうです。

また、上の資料にもあるように、クラウド上で提供する素のサーバーのベアメタルの上でもKubernetesが管理付きで使えるようになりました。企業ではまだまだ自分で基盤を制御できるベアメタルが人気なので、そこでKubernetes等で運用自動化できるとクラウドとも共通化できて便利ですね。

さらにこういったクラウド・ネイティブ化をサポートするために、Transformation Adviserにより、現在あるアプリをクラウドに持っていくにはどういった注意点があるかを教えてくれるツールも用意されました。これで持っていく時の難易度が分かりますね。また、従来のIBMソフトウェア製品である、WASやDb2、MQ、IIBなどもコンテナ化して提供される事になりました。これまたコンテナ化が徹底されています。

マイクロサービス

クラウド・ネイティブ・コンピューティングの潮流とともに、アプリをマイクロサービス化して構築しようという動きが大きくなってきていますが、このIBM Thinkイベントでもどのようにマイクロサービス化していくべきかといった議論が盛んでした。以下はその一つの例ですが、モノリシック(一枚岩)な大きな一塊のモジュールをコンテナ化したからといって、モダナイズとは言わないと。ちゃんとマイクロサービスで小分けしてお互いを疎結合にし、何度もデプロイできるよう自動化し、DevOpsで開発が回せるようにツールの流れも整備すること・・といったベスト・プラクティスが紹介されていました。

以下がDevOpsで継続的デリバリを実現するための流れの例です。IBM Cloud上では、オープンツールチェーンがこれを容易に実現してくれます。

リージョンとゾーン

パブリックなIBM Cloudのインフラ部分は、RegionとAvailability Zoneという考え方を明確に定めて進めようとしていることが分かりました。例えばある都市周辺(Region)に3つのデータセンター(Availability Zone)を持ち、その中でデータを複製しあうことで可用性を高めるというものです。これからは、マイクロサービスで作り、複数のAvailability Zoneで複数の同じマイクロサービスを動かすことで、どこかに問題があっても他のAvailability Zone(データーセンター)で継続して実行できるため可用性が上がりますね。

また、IBM CloudにはDedicatedというのがあり、パブリックなクラウド上でも自分専用のサーバーが持てます。他の人と共有しないサーバーということです。Dedicatedは自分の占有サーバーであるため、メンテナンス停止はある程度コントロールできます。価格も見直されたようなので、今後は自分でメンテナンス時間を決めたい企業を中心に活用が進みそうですね。

One Architecture

また、新しいIBM Cloudのアーキテクチャー (One Architecture)が発表になっています。トップのフォトのブライソンが発表しています。以前のSoftLayerの頃は、IBMのCloudはIaaS、PaaSやその他のSaaSでアーキテクチャーが異なるところがありましたが、以下のアーキテクチャーに統一されました。

大きくは上から、アプリケーション(水色)、AIとデータ(紫)、プラットフォーム(PaaS、青)、インフラ(IaaS、ピンク)、セキュリティ(緑)と5階層に分かれています。以前はAI (Watson)とデータが分かれていましたが、一つのレイヤに統合されました。Watsonはもちろん健在ですが、その他のオープンな機械学習や深層学習、Sparkなども取り入れて自在に組み合わせて使えるようになったことで境目を無くしましたね。

世界のクラウドの状況と2階層API

Thinkイベントにおける、世界のクラウドの進捗状況はどうでしょうか?多くの世界的企業が取り組みを発表していました。他の国はすごくクラウドが進んでいる印象がありましたが、ネット企業はともかく通常の企業は日本と同様で、クラウドもまさにこれからだということが分かりました。クラウド事例としても有名なAmerican Airlineさんの事例を聞いても、基幹業務はまだ最初の業務をクラウドで稼動させた状況だそうです。AAさんのアプリ開発責任者の女性が「私たちはまだ限られた業務しかクラウドで動かしてないけど、2020年までにこの領域の業務をぜんぶクラウドで動かす予定なのよ。皆信じてないでしょうけど!」と言っていたのが印象的で、まさに企業の基幹業務をクラウド化が世界で始まったところだと再認識しました。

AAさんの話で印象的だったのは以下のメリット/デメリットのチャートでした。クラウドでやってみて大変だったのは、最初の様々な新しいテクノロジーを習得するまでの時間(Learning curve)と、他の様々な既存技術との接続と、かかる費用に対する考え方だったそうです。良かったのは、インフラの準備がプロビジョニングですぐにできるようになった事と、SW製品など購入する前にある程度やってみれる事と、開発してみて動かしてみるDevOpsが素早く回せた事とのことでした。

また多くのセッションで、どのデータをパブリックなクラウドに置き、どのデータをオンプレに置くのか。クラウドで動かす時のデータのセキュリティをどう確保するのかといった議論も日本と全く同様にされていました。特にEUで2018年5月から施行される一般データ保護規則:GDPRにより、データを地域毎にどうしっかり管理するかが重要なポイントになっていました。

そういったセキュリティ議論の中で一つの方向性を示していたのが、APIのセッションでした。企業の全てのデータをクラウドに置こうとしている人は誰もおらず、顧客接点を中心としたいわゆるSoE (Systems of Engagement)の領域と、基幹業務を中心としたいわゆるSoR (Systems of Record)の両方のシステムがあり、クラウド化はSoEから進んでいます。特にGDPRなどもあり、SoRのデータやシステムも一挙にクラウドに移行するにはリスクがあるのと初期投資が必要になります。そこでSoRはしばらくオンプレの現行システムを使い続けますが、かといって顧客接点から基幹のデータが使えなければ、企業の一番価値のある基幹データを活用できないことになってしまいます。

そこで議論されていたのが上の2階層APIです(API&Event Gateway)。クラウドで構築されることの多い SoEは、モバイルや外部企業、IoTなどに対する外部向けAPIを提供します (Web API)。一方で企業のオンプレなどのSoRは、SoEに対する社内用API (Enterprise API)を提供します。このように、外部向けAPIと、社内用APIを2階層をしっかり整備しておくことが一つのベスト・プラクティスとして紹介されています。APIは私の主要分野の一つなので、スピーカーの人とはセッション後にいろいろと議論してみました。

このようなクラウドやAPI、セキュリティなどの全体アーキテクチャー議論を世界の先駆者の人たちとできるのも、IBM Thinkのようなグローバル・カンファレンスの醍醐味ですね。

⇒ IBM Think 2018 – Ginni会長による基調講演

⇒ IBM Think 2018 – AIはデータが鍵 – 目玉はWatson Studio

⇒ IBM Think 2018 – Blockchainの使い方が広がる