IBM Think 2023 – watsonxの基盤モデルで企業独自のAI構築を実現!

IBM Think 2023が米フロリダ州オーランドで開催され、AI構築プラットフォームである watsonx が発表されました。watsonxとは、AIを構築する上で必要となる知識の部分の基盤モデル(ファウンデーション・モデル)と、データ管理やAIのガバナンスを実現する以下のようなコンポーネントから構成されるプラットフォームです。

IBM watsonx.ai: 従来の機械学習と、基盤モデルを活用した新しい生成AI機能の両方を学習/検証/調整/導入するための次世代のエンタープライズ向けAI開発スタジオ。

IBM watsonx.data:データとAIを管理する、オープンなレイクハウス・アーキテクチャー上に構築されたデータ・ストア。

IBM watsonx.governance:データとAIガバナンスの両方を包含するツール・キットで、責任ある、透明で説明可能なAIを実現。

watsonx.ai は、様々な基盤モデルを含む、新しいAI構築用プラットフォームです。以前のAIのように一からデータを学習させるのではなく、ChatGPTのLLM (Large Language Model)のような知識が予め用意されており、それを活用して企業独自の学習を追加した上で自社専用のAIモデルが構築できます。基盤モデルは、オープンソースになっているものや、IBM独自のモデルなど複数のモデルから選択して活用できます。

今回Think2023ではスペシャルゲストとしてNASAのRahul Ramachandranさんも登壇いただき、NASAの地理情報モデルも、fm.geospatial という名称で watsonx.aiから提供される事が発表されました。

それ以外にも、日本語や英語の自然言語モデルである、fm.NLP があり、化学用語など分野別の知識も含む様々な言語知識が提供されます。プログラミングのコードを生成するための fm.code も提供され、その最初の適用事例として、Red HatとIBMの協業プロジェクト Wisdomの成果である、Ansible用のコード生成がRed Hat社のKaete Piccirilliさんから紹介されました。

Red Hat Ansibleはインフラの構築を自動化する製品ですが、インフラ構築をYamlという言語でプログラミングするような形になります。しかしインフラ担当の技術者はプログラミングがあまり得意でない場合があり、このAnsible用の自動コード生成はそのインフラ技術者がコードを作成する上で有益です。この機能は製品としては、Watson Code Assistantとして提供予定で、watson.aiのコード基盤モデルを使った最初のケースとなります。今後はCOBOLやPLI、Javaといった従来の言語にも対応すると、私と同じIBM Fellowの Ruchir Puriがメッセージしていました。

watsonx.data は、いわゆるレイクハウスのプラットフォームです。レイクハウスとは、これまでのデータウエアハウスとデータレイクの良いとこ取りをしたデータ管理の事を意味しますが、watsonx.data はそのレイクハウスの機能を活用し基盤モデルによるAI構築をサポートするプラットフォームです。watsonx.aiの提供する基盤モデルに、自社独自のデータを追加学習させようと思うと自社のデータを準備し、管理する必要があります。そのためのデータ管理プラットフォームになりますが、オープンソースやクラウドのCOS (Cloud Object Storage)などを活用する事でコストパフォーマンスの良いプラットフォームになります。

一番分かりやすい事例としてはIBMの人事のAI化です。IBMの人事はまず汎用的なAIの基盤モデルをベースに、IBM独自の人事のポリシーを学習させました。例えば、何年勤務している社員でこういった条件の勤務であれば年何日有給休暇があるといったポリシーです。それによってチャットボットを作る事で、IBM人事の質問対応負荷はかなり軽減され、それ以外の人事施策の実施にワークをさけるようになりました。

watsonxとは、AI構築のためのプラットフォームですが、これまでのWatson AssistantなどのAI製品も継続されます (watsonxは全て小文字ですが、製品のWatsonは最初が大文字です)。Watson製品の中で新しくは票された Watson Code Assistant は、基盤構築自動化ツールである Red Hat Ansibleのためのコード自動生成ツールですが、こちらは watsonxに含まれる基盤モデルである、fm.codeを活用して開発されています。AI構築プラットフォームである、watsonx と、学習した結果の Watson製品が両方共存するのが新しい取り組みになっています。

今回、SAP社との提携も発表されており、SAP製品の中にこの watsonxで構築したAIを組み込んで、SAP製品としてAI機能を提供するようになるとのこと。今後このように、各企業の製品やサービスにAIを組み込む際に watsonxを使っていただく事を想定してプラットフォームが作られています。プラットフォームは最初は7月にAWSとIBM Cloud上のSaaSとして提供され、他クラウドやオンプレも順次サポートされる予定です。