IBM Think 2024が5/21からボストンで開催され、IBMのAI基盤モデルであるGraniteのオープンソース化など多くの発表がありました。最初のIBM CEO アービンド・クリシュナの基調講演でオープンソース化の発表があり、5,000名以上集まった会場も盛り上がりましたが、その後IBMの株価も上がるなど市場にも好感されたようです。
これまでも基盤モデル(LLM)は、Hugging Faceからダウンロードできるなどオープンなものも多くありました。しかし、いわゆるソフトウェアのオープンソースと違い、ダウンロードした後は各自で拡張し使われていたため、多くの異なるモデルが作られ乱立していました。今回の発表はソフトウェアのオープンソース・コミュニティの様に、一つのGraniteに対し誰でもリクエストを出して拡張できるようになり、一つの基盤モデルを皆で育てていく事が可能になります。本格的なオープンソースになるため、Red Hat社とIBMの共同で進めるとRed Hat Summitでも発表されています。
SalesForce社とは、IBM GraniteモデルのシリーズをSalesForce Einstein 1で活用発表。
SAP社は、IBM GraniteモデルのシリーズをSAPのRISE等全体(SAP AI Core)で活用発表。
watsonxはRed Hat社と手を組んでオープンにしているため、どんなプラットフォームでも動かせるのが利点ですね。もちろんオンプレでも動かせます。また、Red Hat Summitでも、Linux (Red Hat Enterprise Linux: RHEL)にもIBM Graniteを同梱すると発表されたため、今後はLinuxでAIを活用する場合はデフォルトがGraniteになりそうです。
IBM Think 2023が米フロリダ州オーランドで開催され、AI構築プラットフォームである watsonx が発表されました。watsonxとは、AIを構築する上で必要となる知識の部分の基盤モデル(ファウンデーション・モデル)と、データ管理やAIのガバナンスを実現する以下のようなコンポーネントから構成されるプラットフォームです。
IBM watsonx.ai: 従来の機械学習と、基盤モデルを活用した新しい生成AI機能の両方を学習/検証/調整/導入するための次世代のエンタープライズ向けAI開発スタジオ。
IBM watsonx.data:データとAIを管理する、オープンなレイクハウス・アーキテクチャー上に構築されたデータ・ストア。
IBM watsonx.governance:データとAIガバナンスの両方を包含するツール・キットで、責任ある、透明で説明可能なAIを実現。
watsonx.ai は、様々な基盤モデルを含む、新しいAI構築用プラットフォームです。以前のAIのように一からデータを学習させるのではなく、ChatGPTのLLM (Large Language Model)のような知識が予め用意されており、それを活用して企業独自の学習を追加した上で自社専用のAIモデルが構築できます。基盤モデルは、オープンソースになっているものや、IBM独自のモデルなど複数のモデルから選択して活用できます。
Red Hat Ansibleはインフラの構築を自動化する製品ですが、インフラ構築をYamlという言語でプログラミングするような形になります。しかしインフラ担当の技術者はプログラミングがあまり得意でない場合があり、このAnsible用の自動コード生成はそのインフラ技術者がコードを作成する上で有益です。この機能は製品としては、Watson Code Assistantとして提供予定で、watson.aiのコード基盤モデルを使った最初のケースとなります。今後はCOBOLやPLI、Javaといった従来の言語にも対応すると、私と同じIBM Fellowの Ruchir Puriがメッセージしていました。
ゲスト・スピーカーは、まず以下のSiemens社のTonyさんが登場されました。デジタル・ツインで実際のフィジカルなシステムに対してデジタルなモデルでシミュレーションして確認し、確信を得る事で意思決定をしていると話されていました。Closed Loop Digital Twinと呼ばれていましたが、製造(Industrial) IoTにより機器をモニターし、そこから得られたデータで Feedback Loopを回すことで確認する。それをAgileに回すことでプロセス全体を柔軟に改善していくのだとお話しいただきました。
Red Hatを活用し基盤をオープンにした上で、MaximoとTeam Centerでライフサイクル管理を効率化しているとの事。オープンなハイブリッドクラウド基盤でリアルタイムなデータ活用を実現しているそうです。AIでメンテナンス・ルーチンを予測可能にするなどして、プロセス全体の自動化をさらに進めていくとも。振動データを取り込んで分析する事で、予測なども実現されているようですね。最終的には、他社も含めてオープンなハイブリッドクラウドでつなげたエコシステムを作り、デジタル・エンタープライズを構築する事が目標だそうです。
これらの特徴を生かせる ハイブリッドクラウドのアーキテクチャーが、以下のように提示されました。特に、どのクラウドやオンプレミスでも動く Red Hat OpenShiftなどを活用した オープンなハイブリッドクラウド・プラットフォームの上に、ハイブリッドクラウド・ソフトウェアとして AIによるインテリジェントな機能を盛り込んだ、Cloud Pak for Dataや、Cloud Pak for Automationなどを活用する事でこれらの価値を最大限にできるとメッセージしていました。
彼は IBM Fellowになっても、常に新しいオープンな技術を取り入れ、それを広め、お客様のさらなるデジタル・トランスフォーメーションに貢献し続けたいと考えています。「常に新しい技術を取り入れ応用することで、新しいビジネスの創出やさらなる効率化が可能になります。それをチームで継続していく事でチームの技術力が向上し、お客様により良いソリューションをお届けできます。それができる技術者集団こそがIBMの強みであり、そこからまた新しいFellowが誕生して欲しいと考えています。」技術者の育成こそが世の中の発展に貢献すると彼は考えています。
例えば、オープン基盤の中でコンテナのオープンなテクノロジーを活用することで、その上で構築したコンテナのイメージを他のクラウドに容易に移行する事ができます。これは現在ではコンテナが広く活用されるようになり、AWSやAzure、Google Cloud、IBM Cloudなどどのクラウドでも活用にできるようになり、かつ Red Hat OpenShift Container Platform などにより企業内のオンプレミス環境であっても稼働できるようになったためです。現在ではUNIXマシンやメインフレームでもコンテナが稼働できるようになっているため、ハードウェアやプラットフォームを選ばないオープンなシステム構築が可能になりました。
最初の基調講演は「The New Essential Technologies for Business」。以下がそのビデオ配信のページです。
まずアービンドは、今最も重要なテクノロジーはやはり、ハイブリッドクラウドとAIであると話しました。例えば、新型コロナウイルスに負けずサプライチェーンを維持し続けるためには、スピードと柔軟性が必要です。必要な部分をデジタル化してリモートアクセスを可能にしたり、AIで効率化し人の関わり方を減らしたりすることが必要になりなります。ビジネスにはデジタルトランスフォーメーションがますます重要になり、そのためのテクノロジーがさらに重要になると語りました。その一つとして、 ハイブリッドクラウドでは Red Hat OpenShiftによって、ミッションクリティカルなアプリケーションも一度作ればどこでも動かすことができるようになり、スピードの向上や柔軟性の向上が実現できます。
Anthem社のゲストスピーカーが登場し、ヘルスケア業界でもテクノロジーが重要になっていると話しました。Anthem社では、Red Hat OpenShiftによるプラットフォームを構築し、データを管理しAIを活用しています 。その事でビジネスのスピードとスケールの両方の向上を実現しました。様々な企業や団体をつないで、データ・サプライチェーンやAIサプライチェーンとも言えるものを実現したとの事です。その際、IBMがEnd to Endのソリューションを提供してくれたと語りました。
金融サービス向けパブリック・クラウド(Financial Services-Ready Public Cloud)は、通常のパブリック・クラウドに対し、特に金融業界に必要なセキュリティ、ガバナンス、レジリエンシー、規制対応などを強化したクラウドになります。今後ミッションクリティカルな金融システムをクラウド化していく上で、最適な環境になります。
IBM Cloudサテライトは、パブリック・クラウド、プライベート・クラウドだけでなくエッジも含めた様々な環境でクラウド・ネイティブサービスを実行できます。IBM CloudのPaaSを含めた環境が、どのプラットフォームでも稼働可能になります。オープンソースのKubernetesを活用し、共通のアクセス管理なども提供することで、様々な環境のAPIを容易かつ安全に接続できるようになります。
IBM Application Edge Management として、5G環境も含むエッジ・コンピューティングの管理ソリューションも提供します。お客様が新しいデバイスなどの製品やサービスを提供される場合に有効です。パブリック・クラウド、プライベート・クラウドに加え、エッジもコンテナの展開・管理が可能になります。
また、通信業界向けには、 IBM Telco Network Cloud Managerにより、Red Hat OpenShiftやOpenStackなどを活用したテレコム・ソリューションを提供します
次に登場したのは、IBM Cloudの女性Fellow、ヒラリー・ハンターです。IBM Public Cloud、オープン、セキュア、エンタープライズ・グレードの3つがポイントとの事。オープンはOpenShiftなどを活用し一度構築したものをどのプラットフォームでも動かせることで、セキュアはお客様のデータはお客様のものとして扱う事をコミット。エンタープライズ・グレードはお客様ごとのミッションクリティカルなアプリもしっかり稼働させることです。
IBM Cloudサテライトは、オープンソースの Kubernetesを活用し、エッジも含めてアプリケーションのデプロイの自動化や運用が可能になります。一つのダッシュボードでエッジも含めた様々なクラウドが一元管理できます。
最初の画面の少し下に、上のような四角いメニューが並んでいますので、その中で「Red Hat OpenShift on IBM Cloud」をクリック。すると以下のような画面が表示されます。「Red Hat OpenShift on IBM Cloud」は略して「ROKS (Red Hat OpenShiftの Kubernetes Service)」と呼ばれていますので、以降はROKSとします。
この画面の下方に以下の「Product Tours (製品ツアー)」がありますので、以下の右の「Red Hat OpenShift on IBM Cloud」部分をクリックしてください。 この体験学習ではその ROKS の新規インスタンスをプロビジョニングし、IBM Cloud ポータルを使用してインスタンスを管理する方法を学びます。また OpenShift Web コンソールを使用してアプリケーションを稼働させる手順も体験できます。
次に、インターネットなどの接続先であるMaster service endpointも「Both private & public endpoint (外部アクセス不可のPrivateもインターネットからアクセスできるPublicも両方可)」 などに変えてみます。最終的に以下のようにサーバー構成と金額が表示されますが、この体験学習では課金されませんので(笑)安心して「Create Cluster」をクリックしてサーバーを起動してください。
少し待つと以下の画面が表示されクラスター環境の構成が完了です。これだけの設定で、3つのデータセンター(ゾーン)にそれぞれ、3つのコンテナ実行サーバーであるワーカーノードが稼働し、合計9サーバー使えるようになります。それらが裏で稼働するOpenShiftの管理サーバーで管理されている状態です。真ん中の「Return to main menu」で元のメニュー画像に戻ってください。
メイン・メニュー画像に戻り、右真ん中の「Manage OpenShift」をクリックし上と同様にアクセスすると、以下の「OpenShift Web Console」が表示されます。「Overview」タブで、ClusterのIDや、置かれている複数ゾーン、正常かどうか、CPU/メモリー使用率などが表示されます。「Worker Nodes」タブでは各ワーカーノードの状態リストが表示されます。「Worker Pools」タブでは「Resize worker pool」で容易にワーカーノード数を3から4などに増強する事ができます。「DevOps」タブでは、(ここでは実行できませんが)開発からサーバー運用までをツールでスムーズに実行できるツールチェーンを起動できることも分かります。
再びメイン・メニュー画像に戻り「Deploy an Application」をクリックすると先ほどのOpenShift Web Console が表示されます。そこで「カタログ」を表示すると、下のような「OpenShift Container Platform (OCP)」カタログが表示されます。右上の「Create Project」でプロジェクトをCreateすると右に「myproject」が作成されます。
最後までお付き合いいただけた皆さん、いかがでしたでしょうか?Red Hat OpenShift とそのアプリを IBM Cloudで動かす手順が良く分かりましたよね。
「Red Hat OpenShift on IBM Cloud (ROKS)」はクラウド側がOpenShiftの管理ノードとそれにひも付く各ワーカーノードを管理してくれるいわゆる「マネージド」のサービスであり、上のようにいくつかのボタンのクリックだけで稼働させることができるためすぐに使う事ができます。これがクラウド上のマネージドでなければ、自分でサーバーを購入し、LinuxやOpenShiftを導入し、その上でアプリのイメージを稼働させ・・と動くまでにかなり時間を要してしまいます。スピードが大事なデジタル時代のアプリには、これからは ROKSが必須ですね!
では、いよいよ次は、実際に自分の IBM Cloud アカウントでも無料で OpenShiftを動かしてみましょう。
今回のニューヨーク出張は、「IBM Technology Institute (ITI)」という日本のお客様をニューヨークのIBMの各拠点にご案内し、IBMの今後の戦略や最新のテクノロジーについてご紹介するというプログラムで、それに同行させていただいたものです。初日はこのアーモンクでIBMの今後の戦略についてお伝えするという内容で、この後4階のボードルームに移動してそちらでRed Hat社買収の意義とその後の戦略などの話が米国IBMの首脳陣からありました。そのボードルームは、毎四半期ごとにIBMのGinni Rometty会長から決算発表を実施して世界に配信する由緒ある部屋なのですが、撮影はNGだったため掲載する事はできませんでした。
翌日のツアーは、IBM Researchの総本山である、ヨークタウン (Yorktown)の Thomas J Watson Research Center です。WatsonはもともとIBMの創始者の名前ですが、AIのWatson同様、IBM研究所の総本山の名前もWatsonとなっています。ビルは以下のように3階建ての大きな美しい円筒形になっています。
最初に、このWatson Research Centerの中にあるThink Labで様々なIBM研究所の最新技術を見せていただきました。様々な物質や液体の成分を即座に分析し、ワインまでも真贋をチェックしてくれる”Visualizer”や、最新のBlockchain技術について話を聞けました。また、アメリカ人だけでなく、アイルランドの方など様々な国籍の方が説明してくれたのも印象的でした。
次はこのWatson Research Centerの中のツアーです。2011年にAIブームの火付け役として有名になった、アメリカのJoperdy! というクイズ番組で人間のチャンピオンに初めて勝ったAIのWatsonの実物が置いてあり、当時の様子を詳細に説明してもらえます。
最初は以下のように「Z」の文字が象徴的な IBM Poughkeepsie Executive Briefing Center でIBM Zの最新技術動向について聞き入りました。IBM Z といえばやはり全てのデータを丸ごと暗号化してしまう「全方位暗号化」がポイントですが、その暗号化されたデータが、IBM Z のメインフレームから外に出しても暗号化されたままで、使う時だけ IBM Z が制御して暗号を解けるようになるという最新暗号化技術について聞き、参加者一同なんでそんな事ができるのか?と説明員に詰め寄るようなシーンもありました。
IBM Zの最新技術を聞いた後は、このポケプシーの広大な敷地の大部分を占める、メインフレーム工場の見学をしました。こんなにあるのかと驚くほどの数のメインフレームがマシンルームに並べられており、膨大な数のテストでチェックされていく様子を見る事ができます。一つずつのマシンを一年近くかけてテストしていくそうで、こうやってメインフレームの信頼性が守られているのだと感じました。
4日目は、ニューヨークの wework に移動しての、IBM Garage見学です。日本の IBM Garage も GINZA SIX の wework が拠点ですが、ニューヨークも同様で、ニューヨークの新スポットになりつつある ハドソンヤード (Hadson Yards) 近くのビルの wework でした。
ミーティングルームが、黒フチのガラス張りなのも似ていますね。この中で IBM Garage のリーダーから活動内容を紹介してもらいました。アメリカでも、wework などを使って普通のオフィスから飛び出して、いつもと少し違う環境でリラックスして新しいアイデアを出し合う事が重要視されているとの事でした。
また、そういったクラウドや基幹システムを含むハイブリッド・クラウドのEnd to Endでの構築サービスをIBM Servicesが提供すると発表されました。これは複数クラウド活用における、クラウド戦略のコンサルティングから、クラウドへの移行、クラウド開発、アーキテクチャー構築、統合管理などを含みます。また、これらクラウドを活用したイノベーションの共創(co-creation)をIBM Garageとして提供します。これらはまさに日本では私自身のミッションとなります。
ハイブリッド・クラウド実現に欠かせないのは、IBMとRed Hat社の協業です。上の写真のように、Red Hat CEOのジム・ホワイトハーストさんも登壇し力強く協業について語っていただきました。特にこれからは、アプリがハイブリッド・クラウドのどこでも動くようになるコンテナとKubernetesのテクノロジーが重要になるとのこと。複数のクラウドやオンプレの全体を効率よく活用していくためには、オープンなテクノロジーが必須になりますよね。