今年のIBM イベント「Think」の最初の基調講演が開催され、IBM CEOのGinni Romettiが何名かのゲストもお招きして、IBMの戦略について語りました。Ginni本人の話も、ゲストの話も最大のメッセージは、お客様のデータの所有者は明確にお客様であり、そのデータによって信頼を得た上でAIなどで価値をもたらす事が重要であるということでした。IBMはデータをお客様の許可なく持ち出すことはせず、お客様のデータによってお客様がビジネスを行うことに貢献すると力強く語りました。ちょうどこの週は一部のSNS企業のデータ流用問題がかなり問題になっており、特にこのポイントに関して聴衆の関心も高かったと思います。
最初にGinniから話があったのは、大きく25年の周期でテクノロジーとそれによるビジネスの変革があったという話です。メインフレーム系に加え、オープン系のサーバーやインターネットが登場し、今さらにAIでビジネスが変わろうとしている変局点にあると。また、かつてはムーアの法則で半導体が1年半おきに倍に進歩していったが、今はWatsonの法則とでも言うか、AIが急速に進化していく時代。しかし、限られた数社の企業だけが勝ち続けるわけではない。多くの企業がこれから逆に破壊者(Disrupter)側になることも可能たといったものでした。そのこれからの主役は、会場の皆さんで、そのような先進的な取り組みの事例を紹介しましょうと語り掛けました。
これらは、昨年(InterConnect@LV)のデータは民主化しないという話からもつながっています。最近は数社のネット企業がSNSなどで一般の人のデータを集め、そのデータを活用して自分たちのビジネスを増殖させ、既存の会社を駆逐しているような話がよく新聞を賑わしています。そういったDistrupterに駆逐されるのではなく、各企業が、80%あるとも言われているまだ使われていない自社の貴重なデータを、AIなどで活用することでそういったDistrupterに対抗できる。IBMはそれをお手伝いしたい。というのがメッセージだと感じました。
IBMの姿勢としてもう一つ提示されたのが、人とマシンの共生です。人VSマシンではなく「人&マシン」であると強調していました。アメリカではかなり、AIが人の職を奪うことが問題視されていますが、人がマシンを使うことでもっとよくなれるというメッセージです。そのためにIBMは、お客様に使っていただくプラットフォームを提供します。そのためにAppleとの協業(後述)などを進めているという話です。
最初の事例は上のアメリカの通信会社、ベライゾン社のCEO Lowellさんから話がありました。デジタル時代に備え、年間$18B投資しているとのこと。特に次世代携帯網の 5Gは重要で、アメリカ全土に新しい光ファイバーをひいているそうで、ワイヤレスも最低ギガビットになり、第四次産業革命だと熱く語られていました。
また、5Gにより応答速度(レイテンシ)が1m秒以下と格段に下がり、携帯に持たなくてはいけない機能が減るため携帯は薄くなり、IoTも爆発的に普及するであろうとのことです。そういった新しい通信網も活用し、お客様のデータを分析することで様々なサービスを拡充する話がありました。得にAR/VR (拡張現実/仮想現実)などが有望とのことです。ただし、ベライゾンは決してお客様のデータを勝手に使って他に流用することは無いと、きっぱり話していました。
次のゲストは、Maersk社のCEO Michael J Whiteさん。私もおおいに関係ある Blockchainで有名な世界貿易の事例です。Blockchainのように、複数の大きく異なる企業でデータをセキュアに共有しながら、データ履歴を改ざんできない形で保持できる技術はまさに我々に必要なもので、使わない手は無いと思ったと語っていました。というのも、様々な企業が国をまたがってつながる国際貿易の世界では、20%の仕事が今でも紙で実施しているそうで、Blockchainの効果が大きいとのことです。Blockchainのスマートコントラクトのコンセプトは、まさに我々の契約にぴったりで、全てのエコシステム参加者が恩恵を受けるBlockchainのビジネスネットワークにより、80%の改善効果があったと言っていました。
Blockchainはビットコインのような使い方だけでは無いという、まさに典型的な事例ですね。また、このようなネットワークを提供するには、第三者的な中立の立場で実施すべきで、そのためにIBMとMaerskでジョイント・ベンチャーを立ち上げるとの話です。
次のゲストは上の、Royal Bank of CanadaのCEO、David McKayさん。若者を中心にネットを使う世代が拡大し、従来型の銀行だけでは危機感を感じたため、デジタルに賭けているとのこと。そうしないと、ネットでの支払いやApple Walletなどで他社が台頭し、自分たちのブランドが破壊(Disrupt)されると感じたそうです。
そのために、データを知識にし、それを価値にする戦略を明確にし、IBMとそのWatsonをパートナーにしていただきました。既にBlockchainも本番でサービスのプラットフォームとして活用しているそうです。AIによって、個人個人のCFOを作りたいとのことで、そのために、Watsonによりデジタル・アシスタントを構築したと話していただきました。そのためにはやはり、データのスチュワードシップ(管理責任)を向上させ、セキュリティを強化することで信頼を構築することで未来に向かうと、語っていただきました。
次にGinniにかわり、下のJohn Kellyが登場。IBM Globalの技術のトップですが、この人が登壇するのは珍しいと思います。当時の社長に、いちばんインテリジェントなコンピューターを作ってと言われて、Watsonを作って、2011年ジョパディのクイズで優勝したと言っていました。
技術のトップらしくまず話したのは、半導体の1年半ごとに倍の性能になる「ムーアの法則」がとうとう終焉を迎えつつあり、1年半ごとに世の中のデータが倍になりAIがそれを分析する新しい「Watsonの法則」とも言える時代になっているという事です。大量のデータを有効活用するために、CPUのスピードだけでなく、GPUやAIエンジンも含めたスピード向上が必要ということですね。
AIも2015年までは猫の認識など実験的なNarrowな使い方が主流でしたが、今はもっとBroaderな使い方になり、産業ごとにAIを使うことで実業務に役立てようという時代になっていると言いました。2050年以降にシンギュラリティがきてAIが人を追い越すかも(?)しれませんが、それまではこのBroaderな時代で実用がどんどん進むだろうとのことです。そのためには強力なコンピューティング・パワーが必要になると。
そこで登場したゲストが、上のNVIDIA社のCEO、Jensen Huangさんです。ゲーム機の画像表示用プロセッサーGPUが超高速なため、AI用プロセッサーとして売り出したことでものすごい勢いでビジネスを伸ばしている会社ですね。特にこの場で強調されたのは、IBMとの提携で作られた新しいIBMのCPU、Power9。これにNVIDIAのGPUが組み込まれて前日の月曜に発表されました。よほどうれしかったのかJensenさん、下のように実際のPower9チップをポケットから出して手に持って会場に見せびらかしていました。
NVIDIA社の事例のビデオでは以下のような画像が高速で流れましたが、かなり圧巻でした。下は道路上の車やバイクの認識。
下は、車が走りながら横に駐車してある車のナンバーを次々を認識していく技術。
最後は、自動運転でずーっと手放しで普通道路を走っていく姿のビデオでした。(たまたま前日に不幸な事故があったためか、ここはあまり強調されませんでしたが・・)
次のゲストは、人事管理SaaSのWorkday社のCEO。WatsonとWorkdayで大きく人事のあり方を変えると、すごい意気込みでした。
例えば以下のように、就職のための面談をビデオで撮り、それをWatsonで判定させてその人が希望のタレントにマッチするかを分析したり、履歴書の文章を自動的にWatsonに評価させたりといったことを実現したそうです。これで人事の効率かもできそうですね。
次は以下のBOX社のCEO。BOXの中でWatsonを使って、非構造データのビデオや音声、ドキュメントなどを構造化して扱えるようにするとのことでした。
最後はApple社との提携。ここではあまり詳しくはふれられませんでしたが、Watsonの機械学習モデルの実行機能がiPhoneなどApple端末の上で動くようになるという発表でした。これまではWatsonも、クラウド上にデータを持っていかなくては動きませんでしたが、これからは例えば機械学習のモデルを使って画像解析をしたい場合は、ネットワークにつながっていなくてもiPhoneやiPadの端末の中だけでできるようになります。これは製造現場の欠陥検知などで使えそうですね。
さて、ざっと振り返りました、恒例のラスベガス・レポートですが、参考になりましたでしょうか? 全体で4万人参加で、うち日本からも750名以上参加。セッションの数は2,500を超える過去最大のIBMカンファレンスのものすごい熱気は伝わりましたでしょうか?
次はさらに、個別セッションの中身をレポートいたします!
⇒ IBM Think 2018 – AIはデータが鍵 – 目玉はWatson Studio
⇒ IBM Think 2018 – イベントで見えたIBM Cloudの方向性
⇒ IBM Think 2018 – Blockchainの使い方が広がる