IBM THINK 2022のカンファレンスの二日目、後半のハイライトは新しいテクノロジーロードマップの発表でした。発表したのはIBMリサーチのトップ、ダリオ・ギル。若くしてIBMのシニア・バイス・プレジデントになり量子コンピューターや半導体技術など全般をリードしているその人でした。
まず量子コンピューターのロードマップですが、2022年に 433量子ビット(Qubit) のものを実現し、さらに 2023年には 1000量子ビット以上まで引き上げます。これは以下の様にコードネーム「コンドル」と呼ばれています。
2025年にはさらにそれを、4000量子ビット以上に上げると発表されました。こうなると一気に実験レベルから実用レベルになると言われているため、期待が膨らみます。その際、ついに複数のプロセッサーが連動して実行する、マルチプロセッサー的なものが量子コンピューターでも実現されるとの事です。どのような技術でこれらが連携しあうのか非常に楽しみです。
これを実現するために、キスキット(Qiskit)と呼ばれる量子コンピューター・ツールの開発を進化させ、このようなマルチプロセッサーを実現するようです。
最終的には以下の様に多数の量子コンピューターが稼働するデータセンターが実現されそうです。
以下が公開された開発ロードマップです。量子ビットの数が増えるとともに、そのツールであるキスキットの実行環境(Runtime)も拡張されていく事が分かります。その上で開発されているアルゴリズムがどのようなものが実現されていくか、ワクワクしますね。今日本を始め様々な地域で盛んに研究がおこなわれています。
また、量子ビットを増やすだけでなく、品質とスピードも上げていくとの事。現在の量子コンピューターの課題の一つがノイズで、それを除去していく事ですが、干渉を防ぐ新しい仕組みにより改善の見込みが立ったようです。量子コンピューターの技術革新、加速していますね。
量子コンピューターが実現に近づくと、現在の暗号が簡単に破られるようになり危険では・・という話があります。それに対する答えが、耐量子暗号化で、THINKの中でも紹介されました。格子(lattice)場暗号の技術を使うもので、量子コンピューターが得意な演算でも解けない新しい暗号化技術です。こういったものとセットで量子コンピューターが発展していくと安心ですね。
また上の図の様に、量子コンピューターだけでなく、AIやそれ以外のシステム(サーバー)、セキュリティ、ハイブリッドクラウドなどのロードマップもあり、それらが関連しあいながら次のステップを目指して進化していくという話もありました。
その中でもAIは上の図の様に、2022年から2023年にかけて、ファウンデーション・モデルを構築していくという話がありました。ファウンデーション・モデルとは、単なるAIエンジンだけでなく、そこに様々なデータを学習したモデルも一緒に提供するという事です。ユーザーはサラのAIエンジンに自分で一からデータを学習させていくのではなく、ある程度既にデータを学習して知識を持ったAIを使えるという事です。様々な言語や、既に分かっている化学式などがその知識の例としてあがっていました。
それらの知識の信頼性をさらに向上した上で、2024年には新しいハードウェアやソフトウェアにより、コスト削減と電力削減をさらに新しいステップにしていくとロードマップを提示していました。
THINKの一か月前に発表した、刷新されたメインフレーム z16 でもメインフレームに組み込むAIチップである Telumが発表されました。7ナノmの半導体の上にオンチップでAIアクセラレーターが乗る画期的なものです。おそらくこのような技術がさらに発展していくのではと思います。
日本の大臣が、2ナノmの半導体技術の話をIBMのアメリカの研究所で聞いたというニュースも出ていましたが、日米で半導体を次のステップに推し進められると良いですね!