IBM Think 2022 – 先進テクノロジーによる共創で実現するのは?

IBMのイベントTHINKが開催されこのリンク先でリプレイが見られますが、これまでとは随分と趣が違うカンファレンスになりました。

以下の様にいつものCEO Arvind Krishnaの話から始まったTHINKですが、以前はやや製品発表やコンセプト発表が多かったカンファレンスが、共創(co-create)をテーマに、Let’s Create~一緒に創ろうというのが重要なメッセージになっています。では何を共創しようというのでしょうか?

先進テクノロジーを活用して様々なデジタルサービスを創っている人を「ニュー・クリエーター」と呼び、社会貢献したり生活を便利にするアプリや、サステナビリティを実現する仕組みを共創している事例を多く取り上げています。ビジネス系の大規模業務アプリケーションの話は少なく、そのような社会貢献系のプラットフォーム作りにフォーカスを当てているように感じました。そういえば出演者も誰一人ネクタイの人はいません。ITを使って開発する人は事務処理を効率化する人・・というイメージだったのが、大袈裟に言うと社会貢献サービスを創造するアーティストというイメージに変わってきているのかもしれませんね。

最初のゲストスピーカーは、上のブライアンさんで、Home Lending Pal社の方でした。AIやブロックチェーンといった先進テクノロジーを活用するも、やりたいのは家探しで時間がかかっている人に、その人にピッタリで、入居して思いと違っていたような事がないようにしたいのだと語っていました。徹底した利用者目線の利便性を、学習されたAIを活用し、ブロックチェーンでオープンに実現したいという熱い思いが伝わってきました。

次にガートナー社のアルンさんが登壇し、単にシステムをクラウドに移行するのではあまり価値が無く、先進テクノロジーを活用した変革・・つまりモダナイズが必要と語っていました。その際、既に様々なクラウドやオンプレミスのシステムが存在するため、ハイブリッドクラウドになるがそれは正しい姿で、オープンにすれば良いのだと。やりたいのはデジタル・トランスフォーメーション(DX)なので、何かを一か所に集める事にお金をかけるのではなく、ベンダーロックインを避けつつそれぞれの環境でオープンに作っていけば良いとの事でした。

Red Hat社のマットさんも登壇し、フォーチューン500社のうち90%以上がRed Hatを使っており、近年複雑になりがちなアーキテクチャーをオープンなテクノロジーを活用してシンプルにし、より早くサービスをリリースし、他社に対してビジネスを差別化する事が重要と強調していました。どこかのベンダーにロックインされると、他で出てきた良いテクノロジーがすぐには使えなくなるので、技術革新のスピードについていくためには、シンプルにオープンスタンダードで創るのが効果的という事ですね。

デジタル資産を管理するMETACO社のシーマスさんは、先進技術の中でもNFTはパラダイムシフトを起こす可能性があると話していただきました。NFTは様々なデジタル資産で使え、例えばソフトウェアのライセンス管理で使うなど、用途が広がっていくであろうとの事です。私もNFTはデジタルが広がっていく中で資産や権利を明確にするために注目の技術だと思いました。

次はIBM Fellowのラジが登壇し、セキュリティの重要性を語っています。特に業界や企業の枠を超えて共創が広がると、セキュリティの重要性が増してくるとの事。新メインフレームのz16にも搭載されたキー・オーケストレーションで、複数のクラウドやオンプレミス環境で複雑になった暗号鍵管理が容易かつ確実になると。また、セキュリティ&コンプライアンス・センター(S&CC)で常にセキュリティの遵守具合をチェックする事でセキュリティ確保を随時確認する事ができるとアピールしていました。さらにCloud Satelliteなどと組み合わせる事で、S&CCで様々なクラウドやオンプレミスを一元的かつ継続的にセキュリティを確認できるようになります。ラジはセキュリティは全てにおいてまず必要と言っていましたが、まさにその通りと思います。

特に重要となるセキュリティ・テクノロジーは、強力な暗号化と暗号化されたまま検索等の分析ができる 1.コンフィデンシャル・コンピューティング、2. ゼロ・トラスト、3. KYOK (お客様暗号鍵の安全な保管)、4. キー・オーケストレーター (ハイブリッド・マルチクラウドでの鍵管理) との事。デジタルが広がるとセキュリティ技術の高度化も必要になりますね。

ここから先、時間にして全体の半分はサステナビリティの話でした。IBMがサステナビリティを最新テクノロジーで実現していくという、並々ならぬ意気込みを感じました。上のクライメート・カーディナル社のソフィアさんは、国連と一緒に気候変動を改善するための活動をされているそうです。その中で、様々な国の人が気候変動に対するアクションを実施できるよう、AIを活用した自動翻訳を実施しているそうです。とにかく世界中の人全てが参加できるようにできることが重要で、(このTHINKに参加している中で最も若いソフィアさんとしては) それによって特に若い人たちにアクションを起して欲しいと願っているとの事です。

貧困と飢餓の撲滅に取組むNPOのデービッド・ギルさんは、フード・トラストのようなサプライチェーンにおけるトレーサビリティや可視化の実現がサステナビリティの鍵となると話していただきました。その中核になるのは、ブロックチェーンの技術だと。

IBMのカリーンは、サステナビリティはまずゴール設定が重要で、気候変動リスクの管理をするためには日々のプロセスや社会活動の中にゴールを達成する活動を組み込んでいく必要があると語っています。何か一時的な対処では無く、常にリスクに対応するためのアクションを実装し、それを定常的に実行していく事がが大事との事です。カリーン曰くは、サステナビリティが重要と言っているお客様は70%を超えているが、実際に活動しているのはまだ35%しかいないとの事です。しかしこれから確実に増えていくでしょう。

レニアさんは、サステナビリティを実現するにはデータの分析が欠かせないと。例えば遺伝子を分析し、その遺伝子の変化による効果を検証する事で、農業などを変革し気候変動などにも役立てたいとの事でした。

IBMのAIアプリケーションのジョセフは、サステナビリティのためにはデータの分析や可視化が不可欠で、そのためにenVizi社をM&Aしたので有効に活用したいとの事です。enVIziは環境パフォーマンス管理におけるデータ分析ソフトウェアで、既に150社を超す顧客に利用いただいており、500を超える種類の定量・定性データの収集・管理・統合化作業を自動化し、全関係者が容易に参照することができるよう、持続可能性に関する大規模な報告体制をサポートするものです。

ESGのゴールを設定し、それに向けての改善状況を日々可視化していく事で、気候変動対応やカーボンニュートラルに向けての進捗を管理できるとの事。以下のような画面で、設定された複数のゴールを満たすための活動の状況が可視化されます。

また、そのようなサステナビリティ実現は、サプライチェーン全体で実現していく事が必要になるため、IBM Supply Chain Intelligence Suite (SCIS) でサポートしていきたいとの事でした。SCSIは従来ブロックチェーンをベースとした食のトレーサビリティ・サービスのFood Trustで培ったプラットフォームを、衣料やプラスチック再利用にも拡張した資源循環プラットフォーム・ソリューションです。

初日Day1の最後は、IBMリサーチのトップであるダリオ・ギルが登場し、このようなサステナビリティなど社会課題の解決には、先進テクノロジーを活用し最速の道を探る必要があるとメッセージしていました。そのために未来のテクノロジーが重要になると。Day2への予告編ですね。Day2では、ダリオ・ギルから量子コンピューターなどの最新ロードマップが示されましたので、次のポストでまとめました。

Day2では、AWS社のマヌさんが登壇されました。これまでグローバルIBMのカンファレンスでは無かったと思いますが、19の主なIBMソフトウェアをAWS上でサポートし、SaaSでも提供すると発表がありました。

以下の発表には、オートメーションやデータ&AI、セキュリティやサステナビリティなどのソフトウェアを、AWS上のOpenShift (ROSA)の上で提供するとの事です。

IBM Signs Strategic Collaboration Agreement with AWS to Deliver IBM SaaS on AWS

Db2やMaximo、Verifyといった広く使われているソフトウェアや、Watson Orchestrateといった新しい名前も挙がっています。いよいよハイブリッド・マルチクラウドの世界になってきましたね。

次のトピックは、そのAWS上でも提供が決まった Instanaなど最近話題のオブザーバビリティについてでした。Weather Companyの実際の事例の話があり、アメリカで実際に竜巻が起こった時に、Instanaの監視のおかげでそれに付随したダメージが最小限で済んだとの事です。

Instanaでは、その時のシステムの稼働状況を詳細に可視化する事ができます。いわゆるオブザーバビリティ・・つまり徹底したユーザー視点でユーザーにとってのシステム状況を見る事で、利用者から見て応答の劣化やエラーが起こっていないかをチェックする事ができます。

その上で、システムを構成するコンポーネントのどこにどういった問題が発生しているのかを把握できます。問題の事象が既知のものであれば、予め登録しておいたアクションを自動実行する事も可能です。例えば特定地域のネットワークに問題が発生しているため、応答がユーザーに返らないケースがあると判断すれば、自動的にそのネットワークは切り離し別のデータセンターから応答させるといった事も可能です。そのようなオブザーバビリティによって、竜巻による二次被害が防げたようです。

このあたりはIBM Fellowのジェリー・クオモが話してくれました。(Jerryはホントに話が楽しい!) 例えばアトランタ行きの飛行機が雷にあう確率が高いと判断したら、コールセンター・ボットが1000人以上といった旅客からの突発的な多数の問い合わせに回答します。また、SREボットが自動的に別便への予約の割り振りも実施してくれます。このようにInstanaやAIOpsでの監視によりビジネスの損失機会を最小限にし、お客様サービスを向上できるとの事です。

このような先進テクノロジーによるサービスの変革や、サステナビリティの実現、サイバーセキュリティの対応が注目された2022のIBM THINKでした。

もう一つ、これからのテクノロジー・ロードマップが発表されましたので、次のポストで解説しますね。

IBM Think 2021の デジタル・イベントで発表されたIBMの新戦略